NHK技術カタログ

地上デジタル放送の長遅延マルチパス等化技術

地上デジタル放送の他、無線LAN やLTE などさまざまな無線伝送において、OFDM が伝送方式として採用されています。OFDM は伝送耐性に優れるものの、ガードインターバル(GI)と呼ばれる信号区間長以上に遅延するマルチパスに対しては伝送特性が著しく劣化するという特性を持っています。これを等化と呼ばれる処理により、遅延時間がGI 長を越える長遅延マルチパス環境における伝送特性の劣化を改善する技術です。

利用分野

・地上デジタル放送の受信機
・地上デジタル放送の放送波中継局やケーブルテレビ局のヘッドエンド用の補償器
・その他OFDM 信号受信機

特長

(1)遅延時間差がGI 長を越える長遅延マルチパスによる周波数特性歪みを補正します。
(2)低レベルの遅延波を高い精度で検出することにより、山岳反射等に起因する多数の長遅延マルチパスが到来する場合でも等化による効果が得られます。

技術解説

地上デジタル放送においては、遠方の山岳などからの反射波や、他のSFN(単一周波数ネットワーク)送信局からの放送波などにより、遅延時間差の大きいマルチパス波が受信され、受信信号品質が劣化する場合があります。マルチパスとは送信された電波が、伝搬時間の異なる複数の経路を通って受信アンテナに到達し、受信される現象のことです。アナログ放送では、映像が二重や三重に見えるゴーストと呼ばれる障害になります。しかし、デジタル放送では、受信した信号の"0"、"1" を判定して映像を再生するためゴースト障害にはなりませんが、受信号から正しい映像を再生できなくなる原因になることがあります。
OFDM 信号の場合、マルチパスの遅延時間差がガードインターバル(GI)長以内であれば、その影響が少ないという特徴があります。しかし、マルチパスの遅延時間差がGI 長を越えると、受信特性が大幅に劣化するため、受信不能になる場合があります。

(1)チャネル推定
受信したOFDM 信号の全てのキャリヤシンボルの情報を利用することで、遅延時間差の大きいマルチパスを正しく検出できるようにしています。この方法により、遅延時間差が有効シンボル長の半分(地上デジタル放送の場合、およそ- 500 μ秒から+ 500 μ秒)までの範囲のマルチパスを推定することができ、マルチパスで生じる周波数特性の歪みによる受信特性の劣化を改善することができます。また、遅延プロファイルを推定する際に必要となるリーク処理に、時間方向の分散を利用した適応制御アルゴリズムを導入することで、山岳反射等によりベルの小さいGI 越えのマルチパス波が多く受信される環境においても受信特性の改善効果が得られます。

(2)等化
マルチパスによって歪んだ信号を、歪みのない信号に戻すことを等化と呼びます。キャリヤ間隔の1 / 4 の分解能で動作する周波数領域等化器と通常のOFDM 受信機と同じチャネル等価器を併用することで、GI 内マルチパス環境における受信特性を損なうことなしに、有効シンボル長の半分までの遅延広がりを持つGI 越えマルチパス環境における受信特性を改善することができます。

提供可能な技術

・周波数領域等化技術
・高精度なチャネル推定技術

関連特許

特許第5023006号 OFDM 信号受信装置および中継装置
特許第5331583号 マルチパス等化器
特許第5460487号 OFDM 信号受信装置および中継装置
特許第5570456号 OFDM 信号受信装置および中継装置
(上記のリンクは開放特許DBにリンクしており、NHK財団のWebサイトから離れます)

≪キーワード≫ OFDM / ガードインターバル / マルチパス / 地上デジタル放送 / 等化器

本技術の利用に関するご相談窓口:URL https://www.nhk-fdn.or.jp/es/transfer/contact.html