認知症が進み、ほとんど発語のなくなった九十一歳の母は、亡くなった父のことだけは忘れずに、いつも「お父さん、お父さん」と呟つぶやいています。車椅子を押して桜を見に行ったときも桜を見てお父さん、と呼ぶ母の声が散る桜のように切なく柔らかくて心に沁しみました。